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フィスコ投資ニュース

配信日時: 2025/08/05 10:32, 提供元: フィスコ

日本製鉄:構造改革と供給網強化で成長実現、U. S. Steel買収で世界トップクラスの規模を持つグループへ(1)

*10:32JST 日本製鉄:構造改革と供給網強化で成長実現、U. S. Steel買収で世界トップクラスの規模を持つグループへ(1)
日本製鉄<5401>は、国内最大手かつ世界有数の鉄鋼メーカーとして、グローバルなサプライチェーンと圧倒的な技術力を基盤に、高機能鋼材を中核とした高付加価値製品を多様な業界に供給している。同社の事業は「製鉄」「エンジニアリング」「ケミカル・マテリアル」「システムソリューション」の4セグメントに大別されるが、その中でも「製鉄」がグループ売上収益の約9割を占める。鉄鋼事業では、国内製鉄所(君津、名古屋、大分、八幡など)を中心に、原料から製品までの一貫生産体制を構築しているほか、ASEAN、インド、米国など海外拠点も強化。用途別では、自動車・建設・産業機械向けなど、強度・耐久性・成形性を求められる分野への製品供給を担っている。

同社の競争優位性は大きく三点に集約される。第一に、他社に先駆けた高機能鋼材の製品開発力と製造技術である。特に電磁鋼板や自動車用高張力鋼板(ハイテン)などは、自動車・電機・インフラ分野など、品質や性能が厳しく求められる用途に数多く採用されており、こうした分野における需要の拡大に対応する形で供給体制の強化が進められている。第二に、海外展開においては、インドのAM/NS India、米国のU. S. Steel買収、ASEANにおける広域供給網などを通じ、成長市場におけるプレゼンスを着実に高めている。第三に、世界的な環境規制強化に対応するため、COURSE50やSuper COURSE50といった水素還元製鉄技術の開発をリードしており、脱炭素社会への貢献と将来的なコスト競争力の確保を両立する姿勢が評価されている。これらにより、価格競争に陥らず、技術・供給・環境の三軸での優位性を確立している。

2025年3月期の売上収益は8兆6955億円(前期比1.9%減)、事業利益は6,832億円(同21.4%減)と減収減益で着地した。国内外鉄鋼事業環境は未曾有の危機的状況の中でも、実力ベース連結事業利益は見通しを上回る7,937億円と見通しを上回る利益を計上。世界の鉄鋼メーカーの中で際立つ収益力を発揮した。東日本製鉄所鹿島地区の高炉休止による固定費削減に加え、電磁鋼板など高付加価値製品の構成比拡大が収益改善に寄与しているほか、販売価格の適正化や生産体制の最適化が収益力を支えた。他方、鋼材市況の悪化や為替変動の影響、外部コスト上昇によるマージン圧縮、さらには輸入材との競争激化により利益面には一定の圧力がかかったが、過去の構造改革と現場力の成果が着実に業績に表れた。

2026年3月期は事業利益4,000億円(前期比41.5%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は2,000億円(同42.9%減)を見込んでいる。環境面では、世界鉄鋼需要は一段と厳しさを増し、製品・原料価格が大幅下落。米国関税政策の動向が現時点では見通せないなか、国内外の多方面の顧客に供給している同社への間接影響は甚大だが、現時点で定量化は困難となっている。ただ、いかなる環境下でも実力ベース事業利益6,000億円以上の確保を行っていくようだ。国内製鉄の構造改革に加え、米国U. S. Steel買収による統合効果、インドやASEANでの需要地型生産拡大といった戦略施策が着実に進んでおり、今後の収益力回復に期待が持てる。高付加価値製品の拡販、グローバルな最適供給網の整備、脱炭素対応に向けた技術開発など、長期的な競争力強化に向けた布石も進んでいる。製造拠点の再編やサプライチェーンの強靭化、国内外の多様な販売チャネルによって、高い参入障壁を築いている点は引き続き注目される。

市場環境について振り返るが、足元は依然として厳しい。世界の鉄鋼需要は2021年をピークに、横ばいから微減の傾向にある。その中でも、中国における過剰生産体制は構造的な問題であり、安価な鋼材の海外流出が続いている。結果としてアジアをはじめ世界の鋼材市況が低迷。日本国内においても、住宅・非住宅着工件数が減少をたどる中、人口減、北米向け完成車輸出減、他製造業の間接輸出減等により国内鋼材需要の減少傾向は継続している。足元需要の低迷は想定を超えて深刻化しているようだ。さらに、脱炭素に伴う原料制約や製造コスト上昇など、短期的な課題だけでなく中長期的な構造変化への対応も求められている。

このような環境下で世界の鉄鋼メーカーの中で際立つ収益力を発揮している同社だが、U. S. Steelとのパートナーシップが開始された。U. S. Steelは、鉄鉱石鉱山・高炉・電炉を有機的に組み合わせた強力な設備構成となっており、米国内の幅広い顧客基盤を有するほか、歴史に裏付けられたブランド価値が存在している。普通株100%保有による経営の自由度を担保、先進技術を共有することでU. S. Steelの競争力を向上させ、米国の成長を捕捉して「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」となる。2028年にかけて設備投資約110億ドルを費やし、商品メニュー強化・供給能力拡大とともに市場ニーズ対応力を抜本的に強化していく。また、黄金株を付与することで、同社の経営自由度と米国政府の監督権限の両立を行い、米国製造業の復活や雇用拡大、米国の産業・社会・安全保障に貢献していく。

市場関係者の焦点となっていたU. S. Steel買収における出資額の合理性については、一貫製鉄所の対価として経済合理性のある出資額となっている。グリーンフィールド投資では、設備立上げ・労働力の確保と訓練・販売先確保等のリスクが存在するほか、1千万t級の一貫製鉄所の建設から商業運転は相応の期間を要し、キャッシュアウトが先行する。今回のブラウンフィールドの優位性として、立ち上げリスクがなく、取得と同時にキャッシュフローが生まれ、製造業労働力の確保が困難な米国で熟練労働者を確保できる。また、米国鉄鋼市場は、世界経済の構造変化を背景にエネルギー・製造業等の鋼材需要分野における米国内回帰の動きが顕著となっており、輸出に依存しない米国内需要中心の需給構造となっている。さらに、先進国で最大の鉄鋼需要かつ日本製鉄の技術力・商品力を活かせる高級鋼の最大の市場となる。

「日本製鉄:構造改革と供給網強化で成長実現、U. S. Steel買収で世界トップクラスの規模を持つグループへ(2)」へ続く


《HM》

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